山口昌男『知の遠近法』(岩波現代文庫)

知の遠近法 (岩波現代文庫)

知の遠近法 (岩波現代文庫)

自分で海外に足を運んで、話して、海外のインテリにinspireして、相手からもinspireされて、の日々を綴った"70年代の知の怪物"。この方の「中心と周辺」理論はニューアカブーム終焉と共に見向きもされなくなった感がありますが、どうしてどうして、いまどきここまでフットワークのある日本のインテリはおらんでしょう。別に帰国子女でもなんでもない山口氏が、海の向こうで丁々発止とやれるのは、人類学のフィールドワークで鍛えた度胸だけではありますまい。
恐らく、山口氏は英語もフランス語もかなりブロークンじゃないかと思う。でも、「聞くに値すること」を喋れば、相当壊れた表現でも相手が聞いてくれるもんです。あとは母国語での構成力。ここがダメな帰国子女は、例えば「英語」は上手いが「会話」ができないために使い物になりまへん。
脱線してしまったが、もうひとつ、そのフィールドで睨みを利かすベテランの存在というのは重要なんだと思う。その分野で政治力があるという意味ではなく、知的緊張を周囲に強いるような実績を持つ人という意味です。例えば、下手な人類学者は山口昌男に読まれているというだけで緊張するんじゃないだろうか。今まで読んだ中では、中国史宮崎市定小説大岡昇平がそう。